使徒9:31をギリシャ語本文で見みますと、邦語訳の意味と若干違っていることに気づきます。

 

 ギリシャ語本文は教会が増殖したと述べていますが、邦語訳は「信者の数が増えた」と訳しています。 

 

新改訳  

こうして教会は、ユダヤ、ガリラヤ、サマリヤの全地にわたり築き上げられて平安を保ち、主を恐れかしこみ、聖霊に励まされて前進し続けたので、信者の数がふえて行った。

 

新共同訳

こうして、教会はユダヤ、ガリラヤ、サマリアの全地方で平和を保ち、主を畏れ、聖霊の慰めを受け、基礎が固まって発展し、信者の数が増えていった。

 

 

 ご覧のとおり、邦語訳では前半の主語は「教会」ですが、後半は「信者の数」が主語になっています。

 

 それでは、ギリシャ語本文ではどう書かれているのでしょうか? 

 

μν ον κκλησα καθ’ λης τς ουδαας καΓαλιλαας καΣαμαρεας εχεν ερνην οκοδομουμνη καπορευομνη τφβτοκυρου κατπαρακλσει τοῦ ἁγου πνεματος πληθνετο.

                                           出典:NA28

  

 前半の主語はκκλησα(エクレシア/教会)の単数形です。

 

 問題となる後半の主語ですが、πληθνετο(増えた、増殖した)という動詞の語形から、主語は「それ」(代名詞の単数形)であることがわかります。

 

 つまり、ギリシャ語本文では、後半の主語も「エクレシア/教会」(単数形)なのです。

 

 岩波翻訳委員会訳や英語訳聖書は正確に訳しています。 

 

岩波翻訳委員会訳

こうして教会は、エルサレム、ユダヤ、ガリラヤ、サマリアの全地方にわたって平和を保ち、主〔へ〕の恐れと聖霊の慰めにあって、その基礎が固まり、発展し、そのを増していった。

 

*「その」は文頭の「教会」を指しています。

  

ESV

So the church throughout all Judea and Galilee and Samaria had peace and was being built up. And walking in the fear of the Lord and in the comfort of the Holy Spirit, it multiplied.

 

*「it」は文頭の「the church」を指しています。

 

 

教会増殖

 

 ほとんどの邦語訳の場合、後半は「信者の数が増えた」と訳されています。

 

 しかし、実際にルカが伝えているのは、教会の数が増えたということです。

 

 もちろん、信者の数も増えたでしょうが、教会の所在地が地理的に拡大したですから、地域教会そのものの数が増えていなければなりません。

 

 このように、「信者の数が増えた」という訳語は、文法的にも文脈的にも適切ではありません。

 

 原文どおり、「教会が増えていった」と訳すべきです。

 

 

教会増殖の要因

 

 上記の結論を踏まえ、使徒9:31からわかることがあります。

 

 教会が増えるためには、次の要因が必要だということです。

 

エイレネー(平和、静けさ、安息)があること
オイコドメオー(家や人を建て上げる)⇒信者の建て上げ

③継続的な主へのフォボス(恐れ、畏敬の念)があること

④聖霊によるパラクレシス(慰め、励まし)があること 

 おわり